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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)782号 決定 1977年10月27日

抗告人

株式会社第一相互銀行

右代表者

館内四郎

右代理人

平田政蔵

相手方

小沢みつ

右代理人

竹内清

主文

本件抗告を棄却する。

原決定添付第二目録中同目録(一)記載の建物の敷地として「図面③の部分」とあるのを「図面②の部分」と更正し、同目録(二)記載の建物の敷地として「図面②の部分」とあるのを「図面③の部分」と更正する。

理由

抗告代理人は、「原決定を取り消す。抗告人が原決定添付第一目録記載の本件宅地の賃借権を東京都荒川区西日暮里一丁目七番六号アジア化成興業株式会社(代表者代表取締役斎藤春子)に譲渡することを許可する。」旨の決定を求め、その理由として、別紙第一ないし第五(但し第四は(一)、(二)。)のとおり主張し、相手方は、別紙第六ないし第八のとおり主張した。

当裁判所は、一件記録に徴し、次の各事実を認める。すなわち、原決定添付第三目録(二)記載の土地(以下、①の土地という)、原決定添付第二目録(一)記載の建物の敷地部分(以下、②の土地という。②の土地は本件宅地の一部である。)、原決定添付第二目録(二)記載の建物の敷地部分(以下、③の土地という。③の土地も本件宅地の一部である。)及び③の土地のほぼ東北側にこれと隣接し、①の土地と③の土地とに狭まれて両土地の間に介在する原決定添付図面④表示の土地(以下、④の土地という)を含む本件土地付近一帯の土地は相手方の所有である。相手方は、昭和四六年当時、坂本四郎に対し②の土地を、同人が代表取締役である北海バネ工業株式会社に対し③の土地を、非堅固建物所有の目的で賃貸し、坂本は、昭和四六年一二月六日北海バネ工業株式会社の抗告人に対する相互銀行取引契約上の債務を担保すべく、②の地上に所有する原判決添付第二目録(一)記載の建物(以下、(一)の建物という。)につき抗告人のために根抵当権を設定し、同月一五日その登記手続を経由し、北海バネ工業も前記同会社の抗告人に対する債務を担保すべく昭和四七年二月一〇日③の地上に所有する原決定添付第二目録(二)記載の建物(以下、(二)の建物という。)につき抗告人のために根抵当権を設定し、同月二五日その登記手続を経由した。(一)の建物の所有者であり(二)の建物の所有者の代表取締役であつた坂本は昭和四八年四月下旬事業に失敗して逃亡し、その直後本件賃借権の譲受予定者とされているアジア化成興業株式会社及び当時その代表取締役であつた亡黄学が相手方の承諾を得ることなく本件(一)、(二)の建物に入り込み、不法に本件各建物及び②、③の各土地を含む本件宅地の占拠を開始し(アジア化成側では坂本らに対する債権回収の一方法だと称しているが占有の正権原を認めるだけの証拠はない。)、①の土地その地上の坂本所有にかかる原決定添付第三目録(一)記載の建物(以下、(三)の建物という。)をも、また坂本チヨ(明治三四年七月七日生れ)が相手方から借り受けている④の土地及びその地上の坂本所有にかかる木造瓦葺二階建建物一階18.18平方米二階16.52平方米(以下、(四)の建物という。)をも不法に占拠し、さらに、黄は、昭和四七年頃(四)の建物の西南側に位置する(二)の建物を相手方の承諾を得ることなく増築して(四)の建物と接続させた。(三)の建物の登記簿上の所有名義については坂本が行方不明となつた後各売買を原因とする移転登記手続が昭和四九年四月二五日坂本から大和久優に、同年五月一一日同人から黄学に経由されているが、いずれも黄が坂本に対する債権回収であると称して手続をしてしまつた。これよりさき、相手方は、昭和四八年一一月五日、坂本、黄及びアジア化成を被告として、坂本が三か月以上賃料を不払いにしたこと、等及び黄、アジア化成の①の土地に対する不法占拠を理由に東京地方裁判所に家屋収去土地明渡請求訴訟を提起し、同裁判所同年(ワ)第八、九〇〇号として係属し、黄ら欠席のまま昭和四九年二月一三日坂本に対し土地明渡等、黄らに対し建物収去・土地明渡等を命ずる判決が言い渡され、その後確定したが、黄らが判決を任意に履行しないため、相手方はやむを得ず同年四月二〇日代替執行を申し立て同年八月二四日ようやく執行を完了した。他方抗告人は北海バネ工業に対する前記相互銀行取引上の債権を回収すべく、(一)、(二)の各建物につき任意競売を申し立て、同年一二月二三日金額一、一〇〇万円で競落し、代金を支払つて、昭和五〇年三月一九日所有権移転登記手続を経由したが、右競売手続の過程でも相手方から前叙のような経緯で不法占拠者であるアジア化成、黄に対する信頼ができないとして同人らには競落させないように努力を要望されていたのでアジア化成や黄には(一)、(二)の各建物から退去してもらつて空家にしたうえ、他の適当な者に本件賃借権等を譲渡して債権の回収を図るべく前示のとおり各建物を競落し、昭和五〇年四月二五日本件宅地につきあらたに期間二〇年、非堅固建物の所有を目的とし、無断譲渡禁止等を内容とする賃貸借契約を相手方と締結し、その際にも相手方からアジア化成や黄にだけは本件賃借権を売らないようにと依頼され、当時はその意向であり競落以後両名から家賃を一銭たりとも受領していない。ところが、抗告人はアジア化成、黄が(一)、(二)の建物を占有し、同人らを退去させてこれを他に譲渡することが事実上困難なことと同人らの信用調査の結果、同人らが抗告人の支店及び他の銀行に一〇〇〇万円、又はそれ以上の各預金を有するほか三〇〇〇万円近くの借地権を有していることを知つたのでアジア化成に本件賃借権を譲渡としても相手方が不利になる筈はないものと考え、昭和五〇年七月八日アジア化成と(一)、(二)の各建物を代金合計一、三二二万一、二〇〇円で売り渡す売買予約を締結した。抗告人は昭和四八年一月以降の本件宅地の地代を坂本に代つて相手方に支払つている。黄は昭和五一年一一月一九日死亡し、アジア化成の代表取締役には斎藤春子が就任した旨同年一二月一一日登記を経由したが、黄の一族は、アジア化成の取締役として経営に参加しあるいは(一)、(二)の建物に出入して相手方に対し斎藤春子という女は知らないと答え、(四)の建物を占拠して坂上に対し家賃又はこれに相当する金額を一切支払わないで押しとおした結果昭和五二年二月二八日同女をして(四)の建物を相手方に売り渡すのをやむをなきに到らせ、アジア化成は相手方から同年四月一三日書面を以て(四)の建物の明渡を求められたのに対し右建物を使用していないから御自由に願うと答えながら、右建物のうち二階は三原建設工業株式会社と称するものに占有を移転し(二)の建物と接続させた一階には自社所有機械類を据えつけて自ら占有している。昭和五二年三月二五日現在アジア化成は都内のさる信用組合支店に通知預金二〇〇〇万円を有する。しかし、相手方はすでに五十才を超えた女性であつて、黄及び黄の一族と面接したこともあり、従前の一連のアジア化成側の所為からアジア化成に対して深い不信感を抱いている。以上の事実を認める。

思うに借地法九条ノ二による賃貸人不承諾の場合における土地賃借権の譲渡の許可は、地上の建物譲渡に伴う土地賃借権に伴う土地賃借権の譲渡を許可しても「賃貸人ニ不利トナル虞ナキ」場合でなければ与えることができないのであり、右の「賃貸人ニ不利トナル虞ナキ]場合とは経済的に賃貸人に不利となる虞がないばかりでなく、さらに賃貸人が譲受予定者との間の信頼関係を維持して行くことができない虞がないと客観的に認みられる場合であると解するのが相当である。これを本件についてみるのに、前叙認定の事実関係のもとにおいて、相手方は、譲受予定者であるアジア化成の①の土地に対する不法占拠との虞さらに④の土地に対する不法占拠により訴訟と強制執行を余儀なくされ、あるいは余儀なくされようとしており、相手方とアジア化成との信頼関係は未だ獲得されていないのにもかかわらず、黄はもとよりその死後もアジア化成側から信頼関係獲得のために努力した形跡は全く窺えないこと及び相手方が抗告人に坂本の地代代払をつとに認めていること並びに前叙認定の事情を考えあわせると客観的にみて、相手方がアジア化成との間に信頼関係を本件土地につき維持して行くことのできない虞がないとはいえないことが明白である。

よつて、本件申立はその要件を欠く失当なものであり、これを棄却した原決定は相当であつて、本件抗告は、理由がないから、これを棄却することとし、前叙のとおり原決定添付第二目録中に「③」、「②」とあるのは、「②」、「③」の各誤記であることが明白であるからそれぞれ更正することとして、主文のとおり決定する。

(吉岡進 園部秀信 前田亦夫)

別紙第一ないし第八<省略>

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